本研究はh-BNを始めとするsp結合半導体における内殻励起に伴う価電子の再配置を、主に軟X線発光の直線偏光分光実験によって実証することを目的とする。先ず軟X線発光の偏光分光実験を実施するため、前年に購入した島津製のラミナー型回折格子を基板として、この上にMo/B_4C多層膜(50周期)をマグネトロンスパッタ装置を用いて蒸着した。この多層膜回折格子の性能を放射光によって評価した結果、入射角45°のとき184eVのs偏光成分の1次回折効率は3.1%を記録した。また、p偏光成分は0.017%であり、入射光の直線偏光度を考慮して99.1%の偏光能を有することを確認した。また、0次光ピークの強度を抑えることに成功し、選んだラミナー型回折格子の溝深さが適切であったことも実証した。このように高いエネルギー領域で偏光子を兼ねた回折格子を実現したのはこれが初めてである。本研究所機械工場で製作された発光偏光分光計にこの多層膜回折格子を搭載して光学調整を行い、前年度に購入した軟X線スペクトル検出器を取り付けた。この分光計を用い、放射光励起によってh-BNのB1s発光を測定し、分解能が不十分ながらσ発光とπ発光成分ごとにスペクトルを得ることができた。また、TiB_2についても測定を行った。これらの実験と並行して、h-BNのN1s発光スペクトルを測定し、これまでのBサイト励起と同様な効果が現れることが確認できた。前年の光電子分光の結果も合わせて議論を行い、sp電子系における価電子の再配置を示すという本研究の当初の目的は概ね達成された。
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