量子井戸構造に閉じ込められた擬2次元励起子のFano干渉効果を、3チャンネルの断熱ポテンシャルに基づくLandau―Zener(LZ)モデルにより解析し、クーロン結合及び価電子帯混合効果がFano共鳴特有の非対称スペクトルプロファイルや幅に如何なる影響を及ぼすかを調べた。理論にクーロン結合及び価電子帯混合を同時に取り込むには、少なくても3チャンネルの結合を考慮する必要がある。擬2次元励起子の問題は、電子・正孔間の距離の層面内への射影を断熱変数とする断熱展開に基づく描像により、その物理的解釈が簡単化されることが分かっている。これによると、チャンネル間の結合は専らポテンシャルの交差点近傍にのみ局在化され、他の領域での結合は無視できる。LZモデルとは、このような特長に基づきポテンシャルの交差点近傍の結合のみを取り込んで、全系の波動関数を近似する方法である。価電子帯混合はこのモデルにより精度よく取り込むことが可能である。一方、これにより得られるLZ波動関数を基底として擬2次元励起子系の結合方程式を構築すると、クーロン結合はそれらの間の非対角項として表れる。 まず、井戸の積層方向へ印加された磁場下での磁気励起子のFanoプロファイルを計算し、スペクトルの非対称性はクーロン結合により引き起こされるが、それらは価電子帯混合により不明瞭になることが分かった。これら起因を、多チャンネル散乱理論に基づいて考察した。次に、磁場が印加されていない系で、3チャンネルLZモデルの範囲で、R行列法により多チャンネル散乱問題を解きFanoプロファイルを求めた。各チャンネル間の詳細な干渉効果を調べることにより。磁気励起子に対する上述の考察の正当性を確認した。
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