昨年度までに、代表的III-V族化合物半導体であるInPの(110)表面において発生する光誘起構造変化をトンネル顕微鏡(STM)を用いて観察し、表面バンド間遷移に共鳴した460nmのナノ秒レーザーを照射すると、(1)表面最外層のP副格子に選択的に(2)電子的結合切断により、(3)vacancyが発生することを明らかにした。さらに、この電子的結合切断の効率は励起強度に対して非線形な増大を示し、その振る舞いは2正孔局在モデルにより良く説明できることが分かった。今年度は、フェムト秒非共鳴イオン化分光法を用い、光誘起構造変化に伴って脱離する原子・分子を同時高感度検出した。 真空劈開した(110)表面、大気劈開後真空中で清浄化した(110)表面、及び(001)表面を試料として用い、波長460nmの励起光によって脱離する粒子を、励起光からマイクロ秒程度の時間遅延をつけた波長793nm、パルス幅150fsecのフェムト秒レーザーによりイオン化した。その結果、すべての表面からP原子、P_2分子及びIn原子が電子的過程により放出される事を明らかにした。また、各脱離種の収量の相対的強度は表面の面方位指数および表面清浄化の方法により異なる事がわかった。これらの結果は、結合切断が表面の微視的な原子結合形態に強く依存している事を示している。さらに、光誘起構造変化と脱離との相関を明らかにするため、構造変化について知見が得られている真空劈開(110)表面からの光誘起脱離について更に詳細な測定を行った。その結果、(1)主要な脱離種はP原子である事、(2)脱離収量は照射強度に対して非線形に増大する事、さらに、脱離収量の照射dose依存性及び脱離原子の速度分布の結果を詳細に解析し、(3)脱離P原子には2つの成分が存在する事を明らかにした。STMによるサイトごとのvacancy生成効率の研究結果と脱離の結果を比較検討することにより、これらの成分は表面テラス上のPサイトでの結合切断に伴う脱離とvacancy隣接サイトでの結合切断に伴う脱離に対応することを明らかにした。
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