液体中に色素分子が溶質として入ると、その光学過程には数十フェムト秒オーダーの超高速位相緩和から、ナノ秒程度よりも遅いエネルギー緩和まで、広範な時間スケールの緩和現象が現れる。特にこの系の光学的位相緩和過程は、溶媒との強い相互作用により数十フェムト秒の大変短い時間で起こる。この過程を理解することは、光学過程を通して物質中の緩和現象を研究する上で一般性を持つ非常に重要な課題である。本研究では、この超高速位相緩和の機構を明らかにすることを目的として、液体やガラス中の色素分子における共鳴二次光学スペクトルの詳細な測定、解析を行う。その中で特に、溶質溶媒相互作用に伴う溶媒モードのラマン散乱成分に着目し、そのフォノン状態密度分布を明らかにする。 溶質溶媒相互作用に伴う溶媒モードのラマン散乱成分は、モデル計算から予測されながら、これまで実験的に観測する試みがほとんど行われていない。この成分は、スペクトル上ではレーリー散乱を中心としたエネルギー位置に現れ、スペクトル幅はフォノン状態密度分布の幅程度、とモデル計算により予測されている。実際の測定は、連続発振レーザーにより試料を励起し、試料からの光をダブルモノクロメーターで分光し、光子計数法により検出した。純粋な溶媒だけによるラマン散乱成分を注意深く差し引き、その結果現われるバルクモードのラマン散乱のスペクトルを解析した。溶液中の色素分子(βーカロチン)を対象に共鳴から近共鳴励起で測定した結果、この成分が実際に観測され、100波数程度の幅を持ち、積分強度はルミネッセンスの1割程度となることが分かった。今後は、そのスペクトル形状や強度の他の成分との比率を詳細に測定し、溶質溶媒相互作用に伴う溶媒モードのフォノン構造を明らかにしていく。
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