本研究では、構造を持った半導体超格子中にコヒーレントフォノン波束を生成し、時・空間領域でのコヒーレントフォノン波束のダイナミクスを研究する事を目的としている。特に、2色ポンプ・プローブ法を用いてポンプ光とプローブ光の波長を変えることで、物質固有の吸収係数やバンドギャップを利用することができ、フォノン波束の生成領域と検出領域を人為的に選択可能となる。また、構造を持った半導体超格子の場合、例えば、クラッド層で挟まれた半導体超格子の場合、その構造と2色ポンプ・プローブ法を利用することで、コヒーレントフォノン波束の生成領域と検出領域を分離することが安易になる。このような方法で、生成領域と検出領域を分離および変えることで、空間伝搬特性、空間干渉性などの測定からコヒーレントフォノン波束の特性を調べ、その結果を基にコヒーレントフォノンの生成メカニズム、および、検出メカニズムの知見を得ることを目的としている。 本年度においては、クラッド層に挟まれたGaAs/AlAs超格子を対象に、2色ポンプ・プローブ実験を行い、伝播フォノンを測定した。その結果、検出された有限の波数を持った折り返し音響フォノンの波数は、プローブ光の波長によって決定されることが分かった。また、表面層のみをポンプ光で励起することで、クラッド層のフォノンの分散関係に従った音響フォノンが表面層に作られる。この音響フォノンによるフォノン波束が試料内部へ伝播し、超格子層を通過する際は、超格子のフォノン分散関係に則した折り返し音響フォノンとして振る舞うことが分かった。さらに、超格子層のみに折り返し音響フォノンを励起した場合、試料表面層に、あたかもK=0のフォノンが伝播してくるような現象を観測した。
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