本研究では、構造を持った半導体超格子中にコヒーレントフォノン波束を生成し、時・空間領域でのコヒーレントフォノン波束のダイナミクスを研究する。特に、2色ポンプ・プローブ法を用いてポンプ光とプローブ光の波長を変えることで、物質固有の吸収係数やバンドギャップを利用することができ、フォノン波束の生成領域と検出領域を人為的に選択可能となる。 今回は、有限周期のGaAs/AlAs半導体超格子におけるコヒーレント折り返し縦音響フォノンの時空間特性、すなわち空間が制限された場合の折り返し縦コヒーレント音響フォノンの特性について調べた。ポンプ光とプローブ光の波長が同じ1色ポンプ・プローブ法で測定した結果、周期数が少ない20周期の(GaAs)_<10>(AlAs)_<10>超格子では、100周期以上の(GaAs)_<10>(AlAs)_<10>超格子では観測されなかったモード(B_2対称性のモード)が新たに現れる。このモードはラマン不活性であるが、周期数が小さくなったためにモードの対称性が破れ、そのために新たに現れたものと考えられる。さらに、周期数が小さくなると観測されている各モードの緩和時間が非常に短くなっている。これは、周期数が小さくなったために、運度量保存則に破綻が生じる。そのため、自由誘導減衰が生じ、緩和時間が短いモードとして観測されたものと考えられる。また、2色ポンプ・プローブ法(ポンプ光:360nm、プローブ光:720nm)で測定した結果、表面層近傍で生成されたコヒーレントフォノン波束が超格子層を伝搬し、GaAs基板へと抜けていくことがわかった。コヒーレントフォノン波束が超格子層から抜けていく時間は、フォノンの音速及び超格子層の厚さから見積もった時間と一致した。
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