研究概要 |
研究成果のひとつとして、相互作用のある電子系における透過確率の久保公式に基づく導出が上げられる。我々は試料に接続されたリード線内の電子相関が無視できる場合には,コンダクタンスはLandauer公式と同型にg=(2e^2/h)∫dε(-∂f/∂ε)τ(ε)と書けることを示した。ここでf(ε)はFermi分布関数。透過確率τ(ε)はvertex関数を用いて定義される。我々は直列量子ドット系にこの定式化を応用した結果、τ(ε)には励起スペクトルに関する情報が豊富に含まれ、vertex補正の寄与が温度依存性に重要な役割を果たしていること等を明らかにした。また、量子ドットの近藤効果に関して研究に大きな発展があった。近藤系の低エネルギーの性質は、熱平衡状態および線形応答に関しては、局所Fermi流体として理解されることは以前から知られている。本研究では、非平衡系においても線形からのずれが小さな場合、低エネルギーの振る舞いは局所Fermi流体として記述されることを示した。 我々のもうひとつのアプローチは、非平衡Green関数のrecursion法を用いた電流分布のシミュレーションである。本研究期間中、特にベクトル・ポテンシャルを通した磁場の効果を扱うよう手法を拡張した。磁場の効果は,Anderson局在、AB効果、量子ホール効果など低次元における輸送現象において極めて重要な影響を与える。我々は、リード線に接続された、磁場中の2重point contact、および電流と垂直方向に広がりのある金属リング内における電流の空間分布を調べた。point contactの系では,渦電流が二つのポテンシャル障壁の間に発生し、磁場がない場合とは異なる渦発生の様子が見られた。また、金属リングの系では、電子の通る経路の違いによる位相差のため、非平衡電流が磁場やバイアス電圧に対して振動するが、この振る舞いがリング近傍にできる束縛状態のエネルギーの磁場依存性、および静電AB効果との関連したものして理解される。我々は強磁性金属間のトンネル現象,および超伝導体-金属の接合系の輸送係数の問題等にも対しても、recursion法を用いた研究を発展させている。
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