本研究の目的は、半導体超格子を試料として、印加電場によってサブバンド間共鳴・散乱を生じさせ、定常的にキャリアが存在できない高次のサブバンドヘの光励起キャリア注入と、それによるキャリア分布制御の機構を明らかにすることである。平成11年度では、p-i-nダイオード構造を有するGaAs/AlAsとGaAs/InAlAs超格子を試料として、発光特性と光電流特性の電場強度(バイアス電圧)依存性を対象に研究を行い以下の成果を得た。 1.GaAs/AlAs超格子では、GaAs層がΓ電子の井戸層、AlAs層がX電子の井戸層であり、Γ-X電子共鳴・散乱に着目して研究を行った。GaAs(6.2nm)/AlAs(1.7nm)超格子において、(a)電子の最低エネルギー状態であるGaAs層のΓ1サブバンドから隣接しているAlAs層のX1サブバンドに電子が散乱されて、Γ1サブバンドのキャリア分布が変調されること、(b)X1サブバンドと高次のΓ2サブバンドの共鳴条件において、Γ1→X1→Γ2という過程でΓ2サブバンドにキャリアが分布することが明確に確認できた。 2.GaAs/InAlAs超格子では、重い正孔(HH)サブバンドと軽い正孔(LH)サブバンド間の共鳴・散乱に着目して研究を行った。光電流特性-バイアス電圧特性から、いくつかの試料においてHH1-LH1共鳴が明確に検出できた。さらに、GaAs(3.7nm)/In_<0.3>Al_<0.7>As(0.85nm)超格子において、HH1-LH1共鳴とそれに続くHH1→LH1散乱によって、正孔の最低エネルギー状態であるHH1サブバンドに起因する発光が消失し、高エネルギーサブバンドであるLH1サブバンドにキャリアが分布することが確認できた。
|