量子ドットに代表されるナノ結晶中における電子や正孔の相互作用の量子力学的諸側面を明らかにすることを目的として研究し、次のような成果をあげた。 (1)有効質量近似の範囲で、球形量子ドットに閉じ込められた電子・正孔系の固有状態の完全系を計算する手法を確立した。これにより、任意の全角運動量の固有状態を求めることが可能となり、様々な摂動の影響を厳密計算により調べることができる。 (2)この結果を用いて、NaCl結晶中のCuCl微結晶において観測されていた赤外過渡吸収(最低励起状態からさらに上準位への光吸収)および2光子吸収のスペクトル計算を行い、実験とのよい一致を見た。これより、閉じ込められた電子・正孔系の量子状態の詳細が明らかになった。とくに、励起子閉じ込め領域から個別粒子閉じ込めにいたる量子サイズ効果の変貌を、実験との比較により明らかにした。 (3)量子ドットの外部に置かれた点電荷による摂動(Stark効果)を厳密に計算し、永続的hole burningなどの実験との比較を行った。 (4)球形量子ドットの表面に拘束された電子・正孔対の固有状態を、高い角運動量状態まで求める手法を作りあげ、具体的に計算を行った。3次元閉じ込めとの境界条件の違いにより、球表面では特異な量子サイズ効果が現れることを見い出した。さらに、一様外部磁場の効果を計算し、量子準位の変化を調べた。 (5)結合した2粒子系の、ポテンシャル障壁での量子トンネル効果を調べた。単一のバリアでも共鳴トンネル透過が起きること、内部自由度の励起を伴う共鳴効果があることなどを明らかにした。
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