光照射による固体表面からの電子励起刺激脱離について、主としてシンクロトロン放射光と組み合わせた電子・イオンコインシデンス分光を用いて研究した。その結果分かったこととして、1.系によっては、サイト選択性があり、励起する原子の種類(化学的な相違も含む)が変わると、脱離種が変化することが示され、軟X線領域の光によって固体のボンド切断をコントロールできる可能性があることが分かった。2.遷移金属酸化物および非遷移金属酸化物表面からの金属内殻励起によるイオン脱離について研究を行い、これまでの定説であるKFモデルではうまく実験結果を説明できないことが分かった。新しい電荷移動機構(小谷・豊沢機構)を提案した。3.金属酸化物や、Si表面に吸着した水の酸素1s内殻励起によるイオン脱離について、内殻励起時、およびオージェ緩和時のシェイクアップ/オフ励起といった多電子励起・緩和によって形成される多正孔状態によってイオン脱離が起こっていることを示した。4.電子・イオンコインシデンス分光法を氷表面に適用し、これが非常に表面感度の高い新しいESCA分光法として使えることを示した、などが挙げられる。 また、光電子分光法を内殻励起後の緩和過程の研究に用い、5.Xe固体の表面において、内殻励起子の寿命が固体内と表面において大きく異なることが示された。さらに、6.実験室において、フェムト秒レーザーを用いた時間分解2光子光電子分光装置を作成し、preliminaryな結果を得た。
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