1/4充填バンド系における電荷秩序についての理論的研究を更に発展させた。特に、局在スピンをもち磁性原子を含む有機導体、すなわちπーd系、及び磁性体の典型であるマグネタイトについて考察した。前者は、機能をもつ多くの生体分子には局在スピンが存在することからも興味が持たれるし、一方、後者はVerveyによる最初の提案以来半世紀が経った現在でも未解決の重要な問題である。πーd系においては、局在スピン系が示す磁気秩序の空間的な配置とπ電子系のそれとの間に大変密接且つ微妙な関連が存在し、一般にπ電子系には電荷秩序が生ずることが明らかになった。特に、局在スピンとπ電子の間の超交換相互作用が金属・絶縁体転移に重要な役割を果たすという事実は極めて注目に値する。 一方、マグネタイトにおいては、従来信じられていた、絶縁状態におけるBサイトにおける電荷秩序が、最近の核磁気共鳴実験によって否定された事実を踏まえ、金属・絶縁体転移であるVervey転移のミクロな機構について新たな可能性を模索した。絶縁状態では、強磁性が出現していることを考慮すると、Bサイトを占有する電子スピンの方向は一定であると考えられ、そのために、バンドは1/4充填となる。更に、軌道状態についても3つの可能性を考慮すると、結局、軌道秩序状態が安定化され、1次元的な電子系が各層に存在すると考えられる。こうして、この1次元電子系のパイエルス転移がVervey転移そのものであると言う結論に達した。この、シナリオでは、今まで理解できなかった、超周期結晶構造および格子振動の異常は全て理解できることとなった。なお、Vervey転移がなぜ一次転移なのかについても考察を加えた。このことについての最終結論はまだ得られていないが、いくつかの可能性を指摘した。
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