超伝導体に磁場をかけると、磁場は量子化された渦糸の形で試料に侵入する。d波超伝導の場合、エネルギーギャップが異方的で、フェルミ面上にノードが存在する。理論的に、渦糸に附随した準粒子のエネルギー状態は、ノード方向に沿って渦糸の外まで伸張すると予想されている。しかし、実験的にこのような状態を示す確たる証拠はまだ得られていなかった。本研究では、NMR(核磁気共鳴)法を用いて、高温超伝導体におけるd波渦糸の電子状態を実験的に調べた。 過剰にドープした高温超伝導体TlSr_2CaCu_2O_<6.8>(T_C=68K)を試料として選び、28テスラーまでの強磁場下でナイトシフトを測定した。その結果、渦糸の外に対応する位置でのナイトシフトが磁場と共に増大することが分かった。この結果は渦糸の外に準粒子状態が存在することを実験的に示すものである。さらに、超伝導による反磁性の効果を補正して解析すると、スピンナイトシフトは磁場の1/2乗に比例して増大することがわかった。これはd波超伝導に対する理論的予想と合致する。また、定量的に考察した結果、渦糸に附随した準粒子のうち、85%が渦糸の外に、残り15%が渦糸の中心に局在することがわかった。 本研究で我々はNMRという局所的実験手段によって渦糸の外の準粒子の存在を実証し、またその状態密度をはじめて定量的に明らかにした。
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