異方的超伝導体と遍歴磁性体からなる多層膜系について、理論的研究を行なった。 超伝導と磁性をそれぞれ引力、斥力相互作用をもつタイトバインディングモデルに対して平均場近似を行なうことで表現し、両者のオーダーパラメタの空間的変化を表すBogoliubov de Gennes(BdG)方程式を導いた。BdG方程式を大容量メモリーを搭載し、高速計算が可能なワークステーションを用いて数値的に解くことにより、以下の結果を得た。 (1)近接効果により磁性体(超伝導体)中に超伝導(磁性)のオーダーパラメタが侵入し、両秩序が共存した表面状態が実現する。 (2)単一のオーダーパラメタをもつ通常の超伝導体に対しても、界面近傍では異なった対称性をもった超伝導オーダーパラメタが誘起される。とくにバルクでスピン一重項の超伝導体に対しても、界面近傍ではスピン三重項のオーダーパラメタが出現しうる。 また、理論で得られた結果を実験と比較するためには、現実の物質では必ず存在する不純物、の影響を調べておく必要がある。上記の研究で考えた異方的超伝導体に対する不純物効果についても研究を行ない、以下の結果を得た。 (3)異方的な超伝導対中に存在する不純物の周りでは、バルクと異なる対称性もった超伝導成分が誘起される。とくに磁性不純物の周りでは磁化やスピン三重項成分が誘起される。 (4)スピン軌道相互作用をもつ磁性不純物の周りではスピンカレントが自発的に発生する場合がある。
|