本研究は、第一原理からのホール係数の計算に取り組む初めての試みであり、強結合LMTO法をベースに、粒子源法と呼ばれるアルゴリズムを用いることを予定していた。この方法により、すでに液体鉄のホール係数を計算し、定量的な成果を上げている。粒子源法はグリーン関数の時間発展を追いかける方法であり、有効ではあるが計算時間を要するものであった。その後、田中・伊藤はこの方法の改良を試みる中で、時間発展の追跡を数値的にではなく、解析的に行う方式を開発した。これは状態密度の計算方式としては、すでに知られていた Kernel-Polynomial法と一致するが、我々は、最終的にこれをはるかに一般化することに成功し、(1)輸送係数を含む任意の物理量(2)固有ベクトルの直接計算(3)局在状態など、不連続スペクトルを含む系-など、様々な応用が可能であることを確かめた。これらの応用範囲について、現在研究を進めている。輸送係数としては、とりあえずホール係数の前に、直流伝導度の新しい計算結果を発表し、粒子源法に比較して、高速なアルゴリズムである事を確かめた。これらの成果については、国内学会、および国内で開催された3つの国際会議・シンポジウムで発表を行っている。
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