伊藤による厳密公式を用いたホール係数の計算は、4体の相関関数の直接計算に帰着される。これは多大な計算時間を要するため、当初予定しており、液体鉄の計算で成功を収めた粒子源法に代えて、状態密度の計算に効率的なVoterの方法を一般化することを考えた。所定の研究期間はほぼこれに費やされたが、我々は強力な方法であるRecursive Polynomial Method(RPM)に到達した。これはグリーン関数の多項式展開と同等で、ハミルトニアンと演算子から導かれるすべての物理量に応用出来るが、任意の演算子の高次相関関数、固有値および固有ベクトル自身をも計算できる。これらをチェビシェフとルジャンドルの多項式を用いて定式化し、グリーン関数と固有ベクトルのモデル計算、液体鉄の電子状態に応用して、3編の論文を発表した。 また、RPMは常に解析的なグリーン関数を与えることを示し、通常使われる直交多項式(特殊関数)のすべてについて、実軸への解析接続を具体的に実行した。これにより、RPMの一般的な構造を明らかにするとともに、使用できる多項式の種類と計算可能な物理量の範囲において、Voterの方法を完全に一般化した(投稿中)。 伊藤はまた、エネルギー平面だけでなく、(複素)時間平面上で類似の議論が可能なことを見出した。これはフーリエ変換を経由せずに波動の時間的発展を極めて効率的に追跡するとともに、有限温度の計算へ道を開くものである(投稿準備中)。とくに、磁場中の波束の伝播を追うことにより、今後は正のホール係数の発現の物理的描像を、実空間で解明できると期待される。
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