研究概要 |
CoO_2平面とThCr_2Si_2型SrCu_2S_2層を有する新規な層状遷移金属オキシ硫化物(Sr_2Cu_2CoO_2S_2)の電気的性質は,半導体的でありゼーベック係数は大きな正の値を示す.80K以下では,ゼロ磁場冷却(ZFC)時と磁場中冷却(FC)時の磁化率に顕著な差が見られ,200K以上では2次元反強磁性相関が強く現われた磁化率の振舞いを示す.なお,磁化の磁場依存性は全温度域で直線的である.80K〜200Kにおいて,高効率粉末中性子散乱実験により観測される磁気ピークは,K_2NiF_4型類似のCoO_2平面の磁気配列によるものであり,ネール温度は200Kと考えられる.200K以上では,長距離秩序は崩壊するものの,短距離的な2次元反強磁性相関が強く生き残っているものと考えられる.一方,80K以下では,2次元的反強磁性構造から3次元的反強磁性構造へ変化がリートベルト解析結果より示唆され,ZFCとFCの差は3次元的な(幾何学的な)スピンのフラストレーションによるものと推定できる.CoO_4クラスターについての量子化学的XPSスペクトル計算により,d電子間のクーロン反発力はU=5eV,p-d電荷移動エネルギーはΔ=4.2eVと見積ることができ,CoO_2平面は電荷移動型とモットハバード型の境界近傍に位置する強相関的な電子状態をとっていると言える.CoO_2平面へ20%Ruをドーピングすると,ゼーベック係数はほとんど変化しないまま,電気抵抗率は10分の1まで激減する.ネール温度は,Ruドーピング量の増加とともに低下し,2次元反強磁性相関的な磁化率の振舞いは押さえられる傾向にある.CoO_2平面へRuドーピングにより,平面構造が3次元的に乱されていることを示唆するものであり,短距離的な2次元反強磁性相関が破壊されつつあることを暗示している.今後,RuO_2平面を有する新規Sr_2Cu_2RuO_2S_2とSr_2Cu_2CoO_2S_2の新規完全固溶体を合成し,幾何学的磁気状態やその電気伝導性の制御要因を明らかにしてゆく.
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