研究概要 |
本研究は、BEDT-TTF, DCNQI分子からなる2:1塩を対象に、電子相関効果の引き起こす特徴的な絶縁体状態の性質を熱容量測定による熱力学的な手法で解明していく事を目的として計画された。ダイマー性の強い系と非ダイマー系での代表的な物質に着目しその基底状態、周辺の電子状態、さらにそれらの相での低エネルギー励起の振る舞いを定量的に議論した。 平成11年度は、特にBEDT-TTF分子のつくる塩の中でダイマー性の強いк-型の構造を持つものを中心に、On-dimerのクーロン相互作用(U)とバンド幅(W)との拮抗によって起こる二次元的な電子系で超伝導・反強磁性絶縁体転移(Mott転移)の境界領域における電子状態に焦点をあてて実験を進めた。BEDT-TTF分子のエチレン基に部分重水素置換をほどこした試料で強磁場下での測定を行い、正常状態の電子熱容量係数γを正確に見積もった。その結果、γは超伝導相の内部深くから、境界に向かって単調に減少していく事が見出された。制御するパラメターがバンド幅(圧力効果)とドーピング量という相違はあるものの、酸化物超伝導体LSCOなどで見られる異常金属相内での擬ギャップ形成と定性的によく似た性質であり、二次元強相関電子系の普遍的な性質であると思われる。 平成12年度は、非ダイマー系での測定を中心に、分子間で働く長距離的なクーロン反発Vの効果より電荷秩序の起こる系である(DI-DCNQI)2Ag塩を中心に低温の熱的性質を議論した。その結果、電荷秩序転移そのものには大きな熱的な異常は現れないが極低温領域でスピンの自由度が残り、擬一次元的なスピン励起があることが明らかになった。さらに外場の印加に伴いこの励起は、急速に減少し、8Tで半分程度になることが判明した。このことは、磁場の印加効果が磁場誘起スピンギャップを形成する可能性を示唆している。
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