研究概要 |
本年度は,動的分子場理論(DMFT)とスピンゆらぎの自己無撞着繰り込み理論(SCR)の,強相関電子系にも適用可能な統一理論について,その基礎付けについてさらに検討するとともに,理論の中で用いている改良反復摂動法を軌道縮退のある場合へと拡張し,統一理論を今後拡張するための足がかりとした。これらについてはすでに論文として印刷済みである。 具体的には,まず,スピン揺らぎの理論として一方で有力視されている「2粒子自己無撞着理論」をAnderson不純物に適用して,この理論が強相関極限で予想される小さなエネルギースケールを再現できないことを見出した。つぎに,この点を改良すると,結局われわれが昨年提案した「統一理論」に行き着くことを示した。また,現象論的に提案されていた「改良摂動論」を,ある仮定の下にミクロに導出することができた。さらに,スピン揺らぎは入れない場合ではあるが,改良摂動論を軌道縮退のある場合に拡張することができた。これは,すでにスペインのグループにより提案されていたものに対してずっと簡潔で使いやすいものになっている。軌道縮退がある場合に,強相関でも使えるスピン揺らぎの理論を作ることが今後の課題である。 また,本年度は,強相関系のうちの近藤絶縁体の熱電能がすぐれた特性をもつことから注目されており,我々は特にYbB_<12>とFeSiの熱電能について研究した。その結果を東京大学物性研究所研究会で研究発表し,さらに年度末の日本物理学会においてシンポジウムで講演する予定であるが,今後スピン揺らぎとの関係が発展する可能性があり,次年度の課題としたい。
|