研究概要 |
本年度は,主たるテーマである「動的分子場理論(DMFT)とスピンゆらぎの自己無撞着繰り込み理論(SCR)の,強相関電子系にも適用可能な統一理論の開発」において,その中で用いている改良反復摂動法を,軌道縮退のある場合へと拡張した。これは,Levy-Yeyatiら(1999)の方法を参考にしているが,彼らの方法では式が非常に複雑になってしまい,実用的ではない。我々の研究では,f電子の個数を0と1個に限定して,より簡明な定式化を行うことができた。また,この理論は,Kontani and Yamada(1997)の2次摂動論の結果の強相関への拡張になっている。論文はすでに印刷済みである。 また,昨年度から開始した,強相関系としての近藤絶縁体の熱電能についての研究が,スピン揺らぎとの関連でますます重要性を増している。そこで,動的分子場理論の立場からの計算を代表的な近藤絶縁体であるYbB_<12>とFeSiに関して行い,論文を発表した。FeSiについてはバンド計算で求められている状態密度を用い,これまで用いてきた2-バンド模型に,正孔がわずかに含まれていると仮定すると,実験をよく説明できることがわかった。YbB_<12>については,同様の計算では高温側で実験と合わなくなることがわかった。これは,YbB_<12>がより強相関であることによる。これらの結果を,熱電変換研究会における招待講演として発表した。ただし,熱電能については,局所的なスピンの揺らぎは取り込んで計算しているものの,大域的なスピン揺らぎの効果を取り込む理論はまだできていない。
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