時間依存密度汎関数法を基礎理論とし、時間依存Kohn-Sham方程式を実時間・実空間で解く方法を発展させ、電子ダイナミクスの量子論的な第一原理シミュレーションを発展させた。 弱い周期的外場に対する線形応答の問題に関しては、2つの方向に発展があった。一つは分子・クラスターなどの有限系の応答に対する連続境界条件の取り扱いである。吸収境界条件を用いた実時間法、及び反復法によるグリーン関数の構成法の開発により、イオン化敷居エネルギーを越えたエネルギー領域の応答理論を完成させた。最近放射光を用いた実験研究により振動子強度の正確な分布が得られているが、時間依存密度汎関数法はそれらを精度良く記述することが示された。もう一つは無限周期系の応答を特徴付ける誘電関数に対する応用である。従来誘電関数は、運動量・振動数表示で議論される。我々は、時間依存ブロッホ関数の実空間・実時間計算から直接誘電関数を求める手法を開発し、Li金属、ダイアモンドを典型例として計算を行いその有効性を示した。 衝突問題では電荷移行などの基底状態から遠く離れた電子ダイナミクスが問題となる。多価イオンの関与する衝突過程に関して2つの成果があった。一つはイオンと金属クラスターの衝突過程に対して我々の量子論的手法とVlasov方程式に基づく半古典理論の比較検討を行い、両者の一致を示した。また双方の手法の相違点を論じた。もう一つは、イオンと原子の衝突に関する理論手法の詳細な検討を行った。局所密度近似を越える扱いを検討し、局所密度近似の精度と問題点を論じた。
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