光パルス幅約150フェムト秒、繰り返し200kHzの再生増幅チタンサファイアレーザーシステムを光源とし、CCD分光システムを測光部に用いた、光カーシャッターを利用した時間分解蛍光スペクトル測定装置の開発を行った。装置本体部は、試料励起部、蛍光をカー媒質へ集光する放物面鏡を用いたリレー光学系、カーゲート部(偏光子-カー媒質-偏光子)、遅延光学系からなる。各素子と光学配置の選択に基づく性能差を、蛍光の集光効率、収差・遅延時間分散、時間分解能の観点から評価し、最適配置に関する指針を得た。また、性能の高いカー媒質を探索し、高効率、低バックグラウンドを実現する媒質を見出した。開発した装置を用いて、Znテトラフェニルポルフィリンのエタノール溶液におけるS_2→S_1発光を高いS/N比かつ短時間で測定する事に成功した。従来の測定法に比較して一桁以上測定時間を短縮したことになる。また、マラカイトグリーンのエタノール溶液や光反応性蛋白質Photoactive Yellow Protein(PYP)についても時間分解蛍光測定を行い、動的ストークスシフトの直接観測に初めて成功した。PYPの時間分解蛍光スペクトル測定により、緩和の初期に、非常に速い減衰を見せる成分が存在するが、そのスペクトルは幅が広く、緩和に伴い幅が狭くなる奇妙な振る舞いを観測することができた。その起源に関して現在詳細な研究を続行中である。本研究により、光カーシャッターに基づく時間分解蛍光スペクトル測定は、超短時間域におけるスペクトルのスナップショット測定に適用できる簡便かつ有効な方法であり、さらなる改良により次世代標準となる測定法であることを示す事ができた。
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