高分子の結晶化では単純液体では出現し得ない非常に複雑で多彩な高次構造が自己組織化される。その典型的な例として、融液からの高分子球晶の成長において、数μm〜数十μm程度の幅を持つ同心円状の周期構造(いわゆる標的パターンと類似のもの)が自発的に出現することが知られている。本年度の研究では、光学顕微鏡・電子顕微鏡による観察と電子線回折により、周期構造の原因となるラメラ状微結晶間のねじれについて明らかにすることを目的とした。 具体的には、分子構造にカイラリティーのないポリフッ化ビニリデン(PVDF)において、どのようにしてラメラ状微結晶間のねじれが生じるのかを、単結晶の3次元的形態の電子顕微鏡による観察で明らかにした。実験は、非晶性高分子であるポリエチルアクリレートとのブレンド物からの結晶化を行い、電子顕微鏡による明視野、暗視野、電子線回折像を観察した。電子顕微鏡内で傾斜された単結晶からの暗視野、電子線回折像から、PVDF単結晶における分子鎖の傾斜が確認され、この分野で論争になっていた傾斜の有無について最終結論を得た。また、同心円状のパターンが見られる結晶化条件では、単結晶の3次元形態が椅子型になることが初めて見いだされ、椅子型結晶における歪みが周期的パターンの構成要素を作り出す要因であることを明らかにできた。 これらの知見を元にして、ソフトマテリアルの特徴であるflexibilityが顕著に現れていると考えられる結晶内部における応力場の影響により、巨視的な同心円状のパターンの生々機構を明らかにするという立場で来年度の研究を進めていく。
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