研究概要 |
以下の高分子系に対して計算機シミュレーションを行い、高分子鎖の緩和モードと緩和率分布を調べ、以下のような結果を得た。 1.複数の高分子鎖の一端が共通の中心で結合された星型高分子の緩和を調べた。排除体積相互作用のみ取り入れ、流体力学的相互作用は無視した。星型高分子の枝の数を従来より多くして、緩和率と緩和モードの枝の数依存性を調べた。少ない枝の数で見い出された2種類の緩和モード(全体の形の変化と2本の枝の位置の交換に対応)が、枝の数が多い場合にも確認された。緩和率の枝の数依存性の指数をより正確に評価することができた。枝の数が多いほど中心部分の緩和モードの振幅が小さくなっていることを見い出した。 2.排除体積相互作用と流体力学的相互作用を取り入れて、溶液中の孤立高分子鎖の緩和を調べた。流体力学的相互作用の強さを変化させたときに緩和率分布がどのように変化するかを記述する理論式を提案し、それが成立していることを確認した。 3.濃厚高分子系中の1本の高分子鎖の緩和を調べた。高分子鎖のセグメント数、本数、シミュレーションの長さに関し世界最大規模のシミュレーションを行った。セグメント数Nの高分子鎖の最も小さい緩和率がNの何乗に反比例するかを記述する見かけの指数が、Nを大きくしていくと大きくなっていき、レプテーション理論の予想値3を超えることを見い出した。扱った最大のNに対しては見かけの指数は3.5になり、実験で見い出されている値に近かった。P番目に小さい緩和率は、理論ではPの2乗に比例すると予想されているが、このシミュレーションでは約1.8と2より小さい指数が得られた。P番目に遅い緩和モードの振る舞いは、P=1,2に対しては理論の予想にほぼ合っていた。P=3,4に対しては理論の予想からのずれが大きかった。
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