本研究は過冷却液体、ガラス転移の動的密度汎関数方程式の数値計算を主な目的とした。この方程式はそのままでは密度が負になり得る為の数値的不安定性の困難がある。これにを避けるには我々が開発したモンテカルロシミュレーションモデルへのマッピングが有力な武器になった。これまでに密度の時間相関関数の計算を行い現在可能な比較的短時間では妥当な結果を得た。一方サンプル数を限って行った剛体球液体模型の長時間のシミュレーションでは以下の結果を得た。(1)液体密度が融点を超えると多数の準安定状態が出現しその間の状態の重なりを表わす量の分布が広がりはじめる。広がりは密度の増加と共に大きくなる。(2)一つの状態の時間変化を初期状態との重なりを追求する事により調べた。MCTのクロスオーバー密度を超えると1つの準安定状態から別のそれに移り変わる所謂ホッピングが観測された。 この様にして動的密度汎関数方程式はMCTの結果を含むと同時に(以下を参照)長時間での熱的活性化仮定を記述できる事が確かめられた。これらの業績は国際的にも一定の評価を受け平成9、10年度だけでもイタリー、スペイン、ドイツ、アメリカ、韓国、日本での国際会議で代表者が招待講演を行った。一方、動的密度汎関数方程式を経路積分形式で定式化した。これの1ループ近似でゲッツェ達のセルフコンシステントなMCT方程式を導出した。しかしMCTや動的密度汎関数方程式の性格には不明な点が多い。この事からモンテカルロシミュレーションを継続すると同時にMCTおよび動的密度汎関数方程式の基礎を単純化した模型で研究する必要に迫られた。その他最近過冷却液体、ガラス転移以外にも水の研究や溶媒和の動力学など比較的短距離での動的協力現象にMCTが応用される様になり、この方法の基礎についての理解を深める事に着手した。
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