(1)反陽子衝撃による水素原子とヘリウム原子の電離断面積を緊密結合法により計算した。戸嶋はガウス基底を用いた2中心展開を、五十嵐はスレーター基底を用いた1中心展開をそれぞれ独立に行って収束性を確認した。今まで計算の行われていなかった100eVの低エネルギーまで電離断面積が高精度で得られた。 (2)ハイゼンベルグコアーを用いた半古典モンテカルロ法によりヘリウム原子の2重電離断面積を陽子衝撃と反陽子衝撃に対してもとめ、機構の違いを明らかにした。中間エネルギーでは分極ポテンシャルと静的ポテンシャルが異符号のため消し合う反陽子は陽子に比べて小さい電離断面積を持つのに対して、低エネルギーでは逆に反陽子の方が大きな断面積を与える。これは反陽子が原子の電子雲の中に侵入すると原子核の電荷を遮蔽するために電離を促進するためと考えられる。MeV領域の高エネルギー衝突では今までの理論と異なり、陽子と反陽子はほとんど等しい断面積を与える。この結果は(1)の量子論の計算と一致し、過去のOlson達の計算が疑わしいことを暗示している。 (3)水素原子のよる反陽子の捕獲過程を初めて量子論的に解析した。初期状態に断熱状態を基底とした歪曲波を用いた遷移行列の積分形を利用して断面積を見積もった。この結果、反陽子は捕獲後高い主量子数と角運動量量子数の状態に捕獲されることが確認された。
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