原子による陽電子散乱では複雑な共鳴現象が見いだされることがあり、電子散乱との対比を通して電子構造の詳細を調べる有効な手段となる。超球座標緊密結合法を用いて大規模精密計算を行い、共鳴散乱の詳細を理論的に解明した。これまで行われていた計算はすべて、原子基底展開による緊密結合法か辺文法によるものであり、いずれもその基底の規模が小さく、共鳴散乱の複雑な構造を調べるには不十分であった。本研究により、実験との信頼できる比較が可能となった。 反陽子衝突による水素の電離を扱った理論計算はこれまで全て一中心展開によるものであったが、反陽子の近傍では斥力のために電子分布が大きく変化を受け、電離断面積にも影響を与えることが期待される。この効果を調べるため、二中心原子基底を用いた大規模緊密結合方程式を解いた。全空間の電子分布で積分した電離断面積にはこの二中心効果がそれほど顕著に現れないが、電子分布の詳細、特に反陽子近傍で電子が排除される効果を表すには、二中心展開が必須であることが示された。 他方、ほとんどの緊密結合法はいわゆる束縛状態型の基底を用いて連続状態の代用としていた。入射反陽子の速度が電子の平均速度より遅い低エネルギー衝突では入射粒子が衝突を終える頃には電子波束も大きく数百原子単位まで広がっており、束縛型の基底では表現できなくなる。また、二中心展開にみられた反陽子近傍の微細構造も一体型の基底では表現が難しい。これらの問題を解決するため、区分的な多項式であるB-spline関数を重ね合わせて波動関数を表現する新しい緊密結合法を考案した。0.1eVの低エネルギーで従来の束縛型展開に比べて2割ほど大きな電離断面積がえられ、波束の広がりを取り込むことが重要であることを確認した。
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