研究概要 |
多電子系分子においては,強光子場(10^<11>-10^<15>W/cm^2)におけるドレスト状態の形成に多くの電子励起状態が関与する。本研究では従来の運動エネルギー分布測定にかえて,解離生成原子・イオンからの発光のドップラー分光測定を新たな実験手法として用いた.一般に,強光子場における光解離生成原子は大きな解放運動エネルギー(1〜3eV)を持つため,高分解能ドップラー分光計測によって,特定の電子励起状態からの「生成物の電子状態を指定した」運動エネルギースペクトルの測定が可能である.初年度は,主に2原子分子を対象とし,(1)最適な分子系および原子発光線の選定を目的とした発光分散スペクトル測定、(2)高分解能分光計測系の選定を行った. 高出力短パルスレーザー光(出力4mJ,パルス幅100fs)を光学レンズで高真空チャンバー内に集光し,10^<15>W/cm^2程度の強光子場を生成する.チャンバー内にN_2などの試料ガスを導入し,ICCDカメラを検出器とした66cm分光器を用いて発光分散スペクトル測定(分解能2cm^<-1>)を行った.標的分子としてはNOおよびO_2を用いた.分散蛍光スペクトルにはクーロン爆発過程AB^<z+>->A^<p+>+B^<q+>(z=p+q)によって生成した多価原子イオン種からの発光が数多く観測された. 特にNOから生成したN^<2+>の3^2P→3^2S遷移(409.24nm)のスペクトルはレーザー偏光方向から観測した場合,2本に分裂していることが初めて見いだされた.スペクトル分裂幅(〜5cm^<-1>)から決定された解放運動エネルギーに基づいて,このN^<2+>は主に解離過程NO^<4+>->N^<2+>+O^<2+>に帰属されることがわかった.これは、強光子場におけるクーロン爆発過程において分子励起状態が寄与することを直接示した初めての例である.より詳細なスペクトルスペクトル測定に向けてファブリーペロー干渉計(装置幅1GHz以下)の仕様を決定し,現在その調整中である.
|