研究概要 |
電子の反粒子である陽電子は電子と電荷符号が異なるのみで、質量等は電子と同じと考えられている。電子と陽電子と物質との散乱過程の研究は物質の(i)物理的状態(量子状態、幾何学的形状等)、(ii)相互作用、及び(iii)散乱ダイナミックスの知見について、電子あるいは陽電子のみを用いた場合と比較し、遥かに深いレベルで且つ豊富な基礎物理の本質的理解を与える。本研究では電子・陽電子散乱による、多原子分子の特に振動回転励起メカニズムの違い、及びこの違いを起こす相互作用の起源についての知見を得るために理論的研究を遂行した。そして同時に実験的研究も実施し理論結果の検証をも行った。電子・陽電子の電荷符号の違いは、入射粒子との相互作用を通し分子の電子密度分布の変化に相違を引き起こし、その結果、電子励起や振動回転励起等ダイナミカルな過程に最もその影響が表われると考えられる。特に電子分布変化は分子場の中を運動する原子核運動に多大な影響を与え、分子の振動回転励起メカニズムへの寄与が非常に大きくなるはずである。本研究で得られた新しい結果で、CO_2分子(100)振動励起過程において、電子衝撃では振動励起断面積が100倍以上も陽電子衝撃のそれより大きくなることが初めて見い出された。また(001),(010)等他の振動回転モードの励起断面積についても非常に大きな違いが有ることが判った。これは電子相互作用が本質的に異なるからと考えられ、この相互作用を理解することは全てのダイナミカルな現象の理解の基となる。次に、CO_2分子と同じ3原子線形分子であるが弱い極性を持つOCS分子についても振動回転励起過程について調べ双極子の有無による効果を調べた。結果は、電子・陽電子衝撃による振動励起過程にCO_2分子程強い違いは現れなかった。さらにここで見い出された一般法則を他の多原子分子の系に応用しその妥当性についても検証した。
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