研究概要 |
地球には固有の磁場(地磁気)が存在する.その主要な部分は,流体核のダイナモ作用で発生しているが,時間変化の短かな現象は太陽風と地球磁場の相互作用の結果として磁気圏や電離層にながれる電流を原因とする.本研究でいう<地球電場>とは.前者,すなわち地球ダイナモによって発生する磁場にともなう電場を指す.これまで,流体核のダイナミクスに関する研究を行なう上で,地磁気観測から得られる情報は最も重要なものとして用いられてきたが,<地球電場>についてはほとんど研究がなされていなかった.本研究は,<地球電場>に着目して,新しい視点から流体核のダイナミクスを解明する道を開拓することを目的として着相された. 地球磁場の発生を説明するダイナモ理論によれば,流体核内部にはポロイダル磁場(半径方向の成分があり,地表で観測可能な磁場)とトロイダル磁場(半径方向成分がないので,ほとんど核の中に閉じ込められた磁場)とが存在すると考えられる.本研究のテーマである<地球電場>の観測の重要な点は,測定される電場から核内のトロイダル磁場変動に関する直接的な情報が得られるという点にある.すなわち,<地球電場>の長期的な観測を行なうことによりトロイダル磁場の時間変動の特性を把握することができ,多点で観測を行なえばその空間分布をも明らかにすることができる. このようにして,トロイダル磁場の性質(時空間分布)がわかれば,地球磁場発生メカニズムの解明に向けて決定的な役割を果たすことになる.本研究の意義は,このような<地球電場>観測の重要性とその可能性を示すことにある. 冒頭に,<地球電場>についての研究が「これまでほとんどなかった」と述べたのにはわけがある.最近10年ほどの間に.本研究者らおよび米国のグループによって,通信用海底ケーブルを用いた電位差の観測研究が行なわれるようになった.さらに,最近の我々の研究によれば(Shimizu and Utada,1998),これらの観測データにはトロイダル磁場に関係する電場の信号が含まれていることが予想されたからである.したがって,海底ケーブル観測網による長期観測によって,<地球電場>についての情報をある程度は得ることが可能になったということができる.しかしながら,海底ケーブルは北米とヨーロッパ・北米と東アジアを結ぶ海域に集中して配置されているため,グローバルな変動を把握するためには著しく不十分である.特に,南北方向の電場変動に関する情報が決定的に不足する.この問題を解決するためには,研究者が観測装置を望みの場所に設置して測定を行なうことがどうしても必要である.もちろん,そのような観測は容易に行なえるものではない.通信用海底ケーブルを用いる場合数千kmの長さでの電位差測定を行なうが,自前の装置で行なうとしたらどのくらいの長さのケーブルが必要になるのか.必要な長さがわかつととして,果たしてそのような観測は実現可能か.可能であるならどのような装置を用いればよいか.どのようなデータ解析を行えばどのような情報を得ることができるのか.などという問題が解決されなければならない.これらの問題の解答についてある程度の見通しはついているが,一つ一つ具体的に明らかにするのが,本研究の目的である.
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