本研究の主要課題の一つは、火星サイズの原始惑星が微惑星の集積により形成される際融解し、その結果として珪酸塩鉱物と金属鉄の分離が起こるか否かを明らかにすることである。そこで本年度は暴走的に成長する火星サイズの原始惑星の初期熱史モデルを構築し、数値計算を行った。それは微惑星の集積過程に強く依存する。そこで集積過程については最近の惑星集積のN体問題の数値計算結果を用い、又微惑星の集積エネルギーの原始惑星内部埋め込み効率については、従来のようにパラメーターとして与えるのではなく、衝撃波を記述する方程式から離散的な個々の衝突について評価する新しい方法を考案した。衝突に伴い形成されるアイソバリックコアの底の温度が珪酸塩の融点を越えるとマグマポンドが形成され、金属鉄と珪酸塩の分離が起こる。融点として珪酸塩の粘性率が急激に減少する温度を仮定すると、マグマポンドの形成と同時に金属成分はひとつの金属塊を形成すると考えられる。金属塊はストークス沈降すると仮定する。微惑星の衝突は離散的に起こるのでその間の熱史と金属塊の沈降は同時に計算する。本研究で開発したモデルには、集積時間と微惑星サイズ分布の最小微惑星質量という二つパラメーターが含まれる。標準モデル(集積時間10^7年、最小微惑星質量10^<18>kg)の計算結果によると、半径3000kmを超える付近でマグマポンドが形成され、珪酸塩と金属の分離が起こる。しかし金属塊はある深さより下には沈降しない。このため形成直後の原始惑星の内部構造は3層構造となる。中間の金属層の厚さはパラメーターに依存するが、妥当と考えられるパラメータ-値の範囲内では、中心部のコアと重力的不安定を起こして入れ替わるほど厚くはならない。この結果は、火星形成直後にコアは形成されず、コア形成の時期はその後の熱史によることを示唆する。なお、熱史の予備的計算によるとコア形成時期は形成後10億年以降となる。
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