研究概要 |
本年度は,昨年度行った集積過程の熱史の計算において,計算結果が衝突時の,等圧核の大きさのとり方に依存することが明らかになったため,等圧核の大きさを変え,初期熱史の再計算を行った.等圧核の半径は,理論的には,下限が衝突天体の半径で与えられ,上限はその1.44倍で与えられる.昨年度の計算は下限値の場合について行ったもので,この場合,微惑星の最小質量によらず,岩石と金属との大規模な分離は進行しない.しかし下限値より大きければ,原始火星の半径1500kmより上層部で金属層の形成が進行することが示された.中心に材料物質からなるコア,その外側に金属層,そして表面に分化した岩石層という三層構造から成る原始火星の内部構造は重力的に不安定である.現在の火星は,マーズパスファインダーの慣性モーメントの観測結果によると,内部まで含めて完全に分化していることが准定される.即ちその後,中間の金属層が沈降し,中心に金属からなるコアが形成されたことになる.この内部構造の変化を計算するため,中間の金属層の沈降過程を取り扱う数値計算コードを開発し,それを用いて火星のコア形成過程の数値計算を行った.その結果,中間金属層と中心の末分化コアの入れ替わり過程は,末分化コアの粘性構造に依存することが明らかにされた.長寿命放射性元素の崩壊により末分化コアの温度が上昇し,粘性が低下すると,1=1の基本モード(レイリー・テイラー型不安定)の擾乱が発達し,中心の末分化コアと中間金属層の入れ替わりが短期間に進行する.内部の粘性が十分低下すると,高次の擾乱モードも発達する.この結果から火星コアの形成時期は集積終了後20億年程度と推定される.
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