今年度の研究においては、主に月近傍の磁場安定性をGEOTAIL衛星の観測データに基づいて定量的に検討した。月は地球から約60Re(1Re=6400km)のところを周回しており、地磁気および太陽風のために月軌道上の磁場環境は大きく3つに分けられる。最も滞在時問が長いものは太陽風領域であり、約70%を占める。この領域では太陽風磁場が支配的であるが、比較的安定しているときには10秒以下の変動はサブnTの程度であり月磁気異常観測(0.1〜1nT)は可能である。しかし、ディスコンなど秒のタイムスケールで瞬間的に2〜5nTも変動する場合があり、月磁気異常シグナルをはるかに超える振幅となる。ただし、全磁力はサブnTの範囲で一定であり、この性質を使えば補正が可能かもしれない。太陽風磁場がマグネトポーズに垂直に入射する領域では、アップストリームウェーブと呼ばれるプラズマ振動か定常的に発生し、数十秒周期で数nTの磁場変動が見られる。月周回衛星における観測では100kmオーダーの磁気異常が数十秒の周期帯域にあたるので、アップストリームウェーブが見られる時には磁気異常の観測は困難と考えられる。次に15%程度の期間を占める地球磁気圏尾部の磁場安定性を検討した。テールローブ中の安定**サブnT以下と非常によく、磁場方向で見ても1度以下で同じ方向を向いている。このような期間は磁気圏尾部のプラズマシートを通過すると中断されるが、その継続期間は通常2時間程度あるので、衛星の1周回軌道観測データを解析して月磁気異常を検出することは十分に可能である。以上のGEOATIL磁場観測データと同時に同衛星によるプラズマ電子密度観測を検討した結果、プラズマ電子の磁場内運動を利用する電子反射法を用いた月磁気異常観測も有力であり、直接磁場観測とともに検討に値するものと結論された。
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