研究概要 |
異常気象など数週間以上の時間スケールでの天候の変動を支配する大気循環の偏差パターンの形成力学に関して研究を行なっている。 本年度の成果の概要は以下の通りである。 ・パターン形成を理解する力学的道具として,3次元的に変化する基本場のもとでの定常線型応答を計算するモデル,および与えられた大規模場の元での短周期擾乱の集団効果を計算するいわゆるストームトラックモデルを開発した。プログラムはなお詳細部分を調整中であるが,以下に述べる成果の一部はこのモデルによるものである。 ・エルニーニョ現象の日本の天候への影響を再考察した。観測データの再解析により,エルニーニョに伴う大規模な下降流が西太平洋で対流活動を抑制し、これに伴う大気の冷却が,西太平洋亜熱帯域に高気圧性の循環偏差を生じさせ,日本付近へ暖湿流を送りこむ。エルニーニョ時に暖冬や冷夏となりやすいのはこのためであることがわかった。冷却源が循環偏差を創る力学メカニズムの詳細を定常応答モデルによって考察中である。 ・エルニーニョ時に現れやすいとされる太平洋-北米テレコネクションパターンの形成には,エルニーニョに伴う熱帯の熱源だけでなく,中緯度ジェット気流の変形とそれに伴う短周期擾乱活動の変化も考慮に入れなければならないことを,定常応答モデルを用いて確認した。 ・エルニーニョの顕著な熱帯太平洋の中緯度への影響は比較的よく調べられてきたが,熱帯大西洋の中緯度への影響の度合いは不明である。このことについて大気大循環モデルでの実験結果及び定常応答,ストームトラックモデルを用いた解析により,太平洋ほど顕著ではないが,一定の影響はあり,それは北大西洋パターンとして知られる大気の内部モードを選択的に励起することであることがわかった。 ・中緯度大気を模したメカニスティックモデル内での大規模場と短周期擾乱の相互作用について解析を行ない,両者間に働く正のフィードバックが大気の主変動パターンの選択律として働いていることがわかった。
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