研究概要 |
異常気象など数週間以上の時間スケールでの天候の変動を支配する大気循環の偏差パターンの形成力学に関して研究を行なっている。本年度の成果の概要は以下の通りである。 ・前年度までに開発した,3次元基本場のもとでの定常線型応答モデル,および与えられた大規模場の元での短周期擾乱の集団効果を計算するストームトラックモデルを用いて,北大西洋においてもっとも卓越する北大西洋振動(NAO)パターンの力学を考察した。とくに,NAOパターンが海面水温偏差によって励起され得ることを示し,その励起メカニズムには潜熱解放,ジェット気流と高周波擾乱の間の相互作用等が関っていることを上記モデルを用いて明らかにした。 ・エルニーニョ時に日本が暖冬となりやすい原因は,西太平洋での大規模な下降流とそれに伴う大気の冷却が日本の南海上下層に高気圧性偏差を作り,これによって南西の暖湿気流が日本列島に吹き寄せるためである。定常応答モデルに冷源を与えることによってこれを確認し,また,大気大循環モデルと海洋混合層モデルを結合したモデル実験によって,冷源の強化には西太平洋でのローカルな大気海洋相互作用が重要であることを明らかにした。 ・北極振動(AO)と呼ばれる大気の主要変動パターンの力学を線型モデルを用いて明らかにした。帯状平均流と定常プラネタリー波の間に働く正のフィードバックにより,AOが準中立モードとして存在することができ,それゆえに長周期変動においてAOが卓越することを示した。 ・1998年夏には長江洪水を初めとして東アジアは豪雨,洪水に見舞われた。西太平洋亜熱帯高気圧の強化がこの主因の一つである。モデル実験により,この高気圧の強化には東南インド洋および赤道東太平洋ペルー沖の高海面水温が貢献していたことを明らかにした。 ・インド〜東アジアモンスーン域の天候変動は日本にも大きな影響がある。中緯度においては,テレコネクションパターンなどと呼ばれるいくつかの変動パターンが卓越することが知られているが,湿潤過程が卓越するモンスーン域の変動パターンについては案外よく知られていなかった。水蒸気流束場の観測データを解析したところ,98年夏の東アジアの洪水を引き起こしたパターンや,以前から知られた西太平洋-日本間のテレコネクションパターン,インド〜東南アジア域のモンスーン変動を支配するパターン等を抽出することができた。
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