火星表面には河川地形が多く見られ、過去に活発な水循環が起こったことを示唆している。しかし、過去の火星表面における水循環の気候物理学的研究は全く行われてこなかった。本研究では大気大循環モデルを用いて、理想化された惑星上の水循環について検討を行い、古火星環境について応用した。次の結果が得られた。1.海を持たないが湿っている惑星の気候状態は3つの場合に分けられる;A.凍結レジーム:地表温度が夏にも氷点を超えない場合で、このとき全球が氷に覆われ、高い氷アルベドのために寒冷化して水循環は殆ど停止する。B.直立レジーム:夏季には地表の氷が無くなる場合のうち自転軸傾斜がハドレー循環の幅よりも小さい場合で、このときは低緯度が乾燥化し、全く低緯度では降水はおこらなくなる。C.傾斜レジーム:夏季には地表の氷が無くなる場合のうちで自転軸傾斜がハドレー循環の幅よりも大きい場合で、このときは低緯度は乾燥するものの、年に2回、夏と冬に降水がおこり、ほぼ全球で降水が見られる。2.現在の火星は、自転軸の傾きが約23〜24度で、直立レジームに属するが、過去の火星では自転軸が60度程度まで傾いた時期があったとされ、この場合は「傾斜レジーム」になる。したがって火星は直立レジームと傾斜レジームの間を遷移したと考えられる。傾斜レジームでは夏季には非常に温暖なので、自転軸傾斜が大きく傾斜レジームに入っていた時期が、過去にあったとされる温暖湿潤期に相当する、とする新しい仮説が導かれる。3.最近流行している寒冷湿潤環境下での流水地形形成モデル、すなわち地表温度が氷点直下程度で地表付近に水が沢山ある状況下で地熱などによって地下が暖められると水が流れてされるというモデル、は寒冷湿潤状況では凍結レジームになるために成立し得ない。
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