研究概要 |
NCEP/NCAR再解析データからバルク式によって得られる日平均の風応力,熱フラックスを境界条件とした海洋大循環モデルの長期積分を行い,夏季アジアモンスーンとENSO現象のカップリングと密接に関連している西部熱帯太平洋の大気海洋システムの経年変動を明らかにした. モデルは,フィリピン付近の熱帯対流活動と関係する,南シナ海とフィリピン東方の西部熱帯太平洋との間の夏季SST偏差の東西傾度を良く再現していた.熱収支解析の結果から,海面の潜熱フラックス偏差の東西非対称が二つの海域間のSST偏差の東西傾度の強化と維持に大きく寄与していることがわかった. また,春季から初夏にかけての熱帯インド洋のプレモンスーンレジームからモンスーンレジームへの遷移が西部熱帯太平洋の大気海洋システムの年々変動に影響を与えていることも見出された.夏季アジアモンスーンが強い年の春季の熱帯インド洋では対流活動とSST分布に赤道非対称偏差がみられ,風-蒸発-SSTフィードバックが働いていると考えられる.強いモンスーンの開始と同時に,北部インド洋と南シナ海ではスカラー風速の増大による蒸発量増加によって低温のSST偏差が形成され,一方フィリピン東の暖水域ではラニーニャ現象と関係する高温偏差が持続傾向にある.インド洋の対流活動とSSTの赤道非対称偏差は消失していき,西部熱帯太平洋暖水域の対流活動はSST東西傾度の強化と共に活発化,局在化が生じる.対流加熱の強化により,赤道非対称の大気ロスビー波が西側で励起され下層西風偏差が卓越する.このプロセスはさらに潜熱フラックスとSSTの変化を通して対流活発域の局在化を促す.そのような大気海洋システムの正のフィードバックが夏季に持続している間,対流加熱強制に応答したPJパタンが卓越し,特に日本周辺における最近の暑夏(1999年、2000年夏季)の主な要因となっていると結論付けられる.
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