大気運動をシミュレーションする回転円筒水槽実験において流体粒子の3次元ラグランジュ運動を長時間追跡してそのカオス的解析をするのが本研究課題の目的である。ラグランジュ的観点から大気運動を調べることが特に重要な対象として、成層圏においてオゾンを極に運ぶ大気運動や、極渦周辺の大気運動が知られている。昨年度はこれらの運動を回転円筒水槽実験で再現し調べることを試みて、底から水深全体の20%にあたる高さにのみ半径方向に温度差を与え、さらに観測水の水面を暖めることで下層に対流圏にあたるロスビー波の流れ、上層に成層圏にあたるハドレー流の流れを作ることに成功した。そこでは特に南半球で起こるドリフトする対流圏波動の成層圏への伝播に当たる実験をするため、ベータ効果に当たる半径方向の傾斜を底に入れて波数5、4、3におけるロスビー波の上層への伝播について調べた。その結果、波数の小さい3の波のみが高く伝播することを確かめた。本年度は、昨年度の実験結果を数値的に理論値と比較するため、理論的にはっきりしている底を平らにした場合について実験した。この場合、波数の小さい波が伝播において弱い指数的減衰を示すことが知られているが、実験によって90%以上の精度で実験値が理論値と一致することを確かめた。更に、ベータ効果に当たる半径方向の傾斜を底に入れた場合においても、理論と数値的に比較し昨年度の結果を確かめた。北半球では、山岳地形によって定在する対流圏波動が主に生ずる。これに対応する波動を再現するため、水槽の底に垂直な羽を波数と同じ数取り付け定在波を生成した。波数5、4、3、2について伝播の実験をした結果、ドリフトする波動の場合と異なり波数2のみがベータ効果を示した。この実験では波動が定常でない兆候が見られ、この結果は確かめ直す必要がある。本研究課題のこれまでの結果をすでに論文にまとめJ.Atmos.Sci.に投稿した。
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