まず、雷放電により放射された電磁波(空電)を観測するための雷空電観測システムを設計・試作した。このシステムでは、空電の磁界水平2成分を直交2軸のループアンテナにより検出し、その波形をA/D変換(サンプリング周波数44kHz、16ビット)してPCに取り込む。取り込みは常時行われているが、ある閾値を超えるような強い空電パルスが観測されたときだけ、その前後1秒間の波形をハードディスクに保存するようになっている。この雷空電観測システムを金沢大学工学部屋上に設置し、2000年4月より雷空電の自動観測を24時間行っている。このシステムにより、多いときには1日数百〜数千の雷空電波形を記録することができている。 一方で、1つの雷空電の磁界波形に含まれる複数のパルス列を解析することで、1地点での空電観測データを用いた落雷位置推定を試みた。1つの空電波形において最初に観測されるパルスは、落雷電流から放射され観測点に直接到達する波(直接波)であり、磁界の南北及び東西方向成分のパルス強度比を調べることで直接波の到来方向、即ち落雷の方向を知ることができる。一方、落雷から放射された空電が電離層と大地の間を多重反射して観測点に到達することから、2つ目以降に観測されるパルス列の時間遅れ間隔を調べることで、落雷までの距離及び電離層高度の両方を推定することができる。実際に観測された空電データのいくつかに対して、この方法を適用して落雷位置を推定し、その結果を北陸電力(株)により提供されている落雷位置情報(複数地点での空電観測に基づく雷位置評定システムによる)と比較したところ、距離数十〜数百kmの範囲の落雷に対して誤差10%以内で一致した。また、この方法に基づく1地点観測からの雷位置推定では、電離層反射時に空電の減衰が大きいためパルス列がはっきりしなくなる昼間よりも、夜間の方が精度良く推定を行えることも分かった。
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