本年度は、関東山地上野村周辺の秩父帯の泥質岩の採集と微細構造の観察を行った。その結果、S-C structureやRiedel shear・duplexなどの小〜微細構造を確認した。これらのshear senseによれば、およそN→Sのthrust upが卓越している。またthrust up以前に、泥注入の現象を確認した。泥注入→thrust upは付加過程の一連のプロセスと考えられる。今後さらに泥質岩のイライト結晶度の測定を進める予定である。一方、より付加体の全体像が把握されている四万十帯の泥質岩についてもイライト結晶度を用いて同様の検討を行った。扱った泥質岩試料は関東山地大滝層群のもので、本層群の被熱温度はおおよそ330℃と推定された。また圧力条件を、イライトb_0値を用いて推定し、310-450MPaと見積もった。このほか、補足的に、関東山地四万十帯南帯の白亜系小仏層群と古第三系相模湖層群の泥質岩についてもそのイライト結晶度を測定し、両層群にはIC値で0.05のギャップがあることを確認した。このようなギャップは西南日本の一部の四万十帯からも知られており、白亜系と古第三系の堆積物年代を推定することに有効であると考えられる。 タイ国ではバリスカン造山帯に相当する地帯の泥質岩の小〜微細構造の観察を行った。イタリアではアペニン山脈のオリストストロームを観察し、重力流堆積物と構造性堆積物の2タイプの違いを検討した。ドイツでは現地観察はできなかったが泥質岩を構成する粘土鉱物について情報を収集した。さらに韓国のソウル国立大学のIl Yong Lee教授を招待し、イライト結晶度の研究法について議論をおこなった。Lee教授には九州秩父帯の試料採集の同行をお願いし、今後共に採集した同一泥質岩のイライト結晶度をソウル国立大学と筑波大学で測定する予定である。
|