研究概要 |
前年度に引き続いて屈曲構造が発達することが知られている滋賀県北部から福井県南部の柳ヶ瀬断層周辺,特にその北部の地質調査を行った.同断層の先端部からさらに北方には半波長10kmオーダーの南に開いたゆるやかな屈曲構造が発達し,特にそのヒンジ部周辺には,さらに波長の短い屈曲が重なり合って複雑な構造を持つことが明らかになった.その屈曲のヒンジは急傾斜し,南方の柳ヶ瀬断層に向かって収斂していき,柳ヶ瀬断層を挟んで,両側の地層の走向が大きく変化するようになる.したがって活断層である柳ヶ瀬断層の起源は,美濃-丹波帯の大屈曲構造の形成と密接に関連している. 1995年兵庫県南部地震と関連した六甲活断層系,丹波帯中の三峠断層,殿田断層,伊那谷南部で木曽山地を横断する飯田-松川断層,および飛騨山地南部の境峠断層についての調査を行った.これらの断層も基盤構造と大地形は密接に関連しており,さらに小規模な変動地形や活断層露頭との関係もふまえて,断層の活動史を解析することができる.特に,基盤岩中の断層岩の組織観察は,断層の変位センスや活動時の物理条件に関する情報の解読に重要な役割を果たすことが確認された. 関連する基礎研究として,付加体の続成・変成度,活断層運動に伴う上下変動や削剥量を見積もるための道具として有力なイライト結晶度の研究室間誤差,機器間誤差を検討した.その結果,機器間誤差が他の要素から生じる誤差に比べて有意に大きく,結晶度の広域的対比のためには標準試料を用いたIC値の標準化が必要であることが明確になった. 付加体の地質構造の比較研究として,ニュージーランドの中生代トーレス付加体を調査し,基盤構造から読み取ることができる新生代の地殻変動の概要を考察した.ここでも,最近の地殻変動による基盤構造の二次改変が生じ,一部に急傾斜したヒンジを持つ複雑な屈曲構造を持つことが明らかになった.
|