研究概要 |
オマーン・オフィオライトの拡大軸ステージのマグマ溜まりルーフゾーンは上位から粗粒ドレライト,ペグマタイト状ガブロ,塊状ガブロ,葉理構造を有するガブロから成る。粗粒ドレライトは塊状ガブロと比べ,斜長石の累帯構造が顕著なことと,両者の境界にペグマタイト状のガブロが挟まれていることから,前者はメルトレンズの天井部で,後者はメルトレンズの底で結晶化したと考えられる。 葉理ガブロの斜長石は均質なコアを持ち,リムでわずかに正累帯する。それに対して塊状ガブロの斜長石は均質である。両ガブロともに単斜輝石は緩やかに正ないしは逆累帯する。葉理ガブロの斜長石リムは13-30%の粒間メルトから晶出した。粗粒ドレライトの斜長石は顕著な正累帯をし,コアは塊状ガブロや葉理ガブロに比べ幅広い組成を有し,単斜輝石は65-75%の粒間メルトから晶出し,正累帯する。塊状ガブロでは斜長石結晶の長軸が高角で接するが,葉理ガブロでは長軸が低角をなし,定向配列が顕著である。しかしながら,明瞭な線構造は認められない。以上の観察から,次のような形成プロセスが考えられる:メルトレンズの底で結晶化した塊状ガブロの集積結晶はマッシュの中に埋もれていく過程で圧密を受け,結晶の定向配列を獲得するとともに,粒間メルトが絞り出された。集積結晶の圧密・再配列の結果,閉鎖空間となった粒間にトラップされた残液から結晶リムが晶出し,顕著な正累帯を形成した。一方塊状ガブロはメルトレンズ底部でマッシュに埋もれることなく,最後まで粒間のメルトがメルトレンズ本体と平衡を保った状態で固結したために,ほとんど累帯構造を形成しなかった。 葉片状の単斜輝石を有する粗粒ドレライトの斜長石コアは互いに連結したネットワークを形成し,単斜輝石は幅広い組成範囲と複雑な累帯構造を示す。このことは結晶分化では説明できず,斜長石のネットワーク間を様々な組成のメルトが自由に通り抜けることによって生じたと考えられる。 一方,沈み込みステージの深成岩体は非常に不均質で,結晶マッシュへの岩脈やシートの貫入とマグマ混合,マッシュの再溶融などの複雑な現象が長期間にわたって繰り返された様子を読み取ることができる。このような産状はまさに島弧火山のマグマ溜りに期待されるイメージと一致する。
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