研究概要 |
1.微量元素の分析 これまでに分析した伊豆,千島,カムチャッカの試料に加えて,マリアナの火山岩22試料を比較のため分析した。また,イオンクロマトグラフを用いた希土類元素の分析法を改良し,実用化させた。 2.結果と考察 今年度の研究によって得られた知見は以下の通りである. ア)伊豆弧火山岩のB/Nb,Pb/Nb,Ba/Nbが,スラブ深度の増大とともに減少することを明確化した。また,マントルウェッジに対するスラブ起源のフルイドの寄与が,スラブ深度の小さい所ではB≒Ba>Pb≒Rb>K>Li≒Be,スラブ深度の大きい所ではBa>Rb>Pb≒B≒K>Li≒Beであることを示した。 イ)同様の傾向が千島-カムチャッカ弧でもみられることから,この傾向が島弧一般に成り立つことを示した。また,火山フロントのみからなるとされているマリアナ弧についても,微量元素組成の変化が伊豆,千島-カムチャッカのものと整合的であることから,島弧横断方向の組成変化がやはり存在する可能性を示した。 ウ)上記のデータから,スラブ深度が増大するとともに,放出されるフルイドの組成が変化していることを明らかにした。また,この組成変化を説明するためには,スラブ中に脱水分解の温度圧力条件の異なる複数の含水鉱物が存在し,しかも,脱水が全体としては連続的に起こらなくてはならないことを示した。 エ)島弧横断方向の組成変化に見られる異常に基づき,カムチャッカ弧最北部の沈み込み-トランスフォーム境界付近では,他の場所よりも多くの水がスラブととともにマントルに持ち込まれていることを明らかにした。
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