この研究の目的は、高温高圧その場赤外分光実験により珪酸塩メルト/ガラスと水の相平衡関係を決定し、珪酸塩メルト/ガラスヘ水が溶解する反応のエネルギーを明らかにすることにある。11年度では予備実験と実験装置の最適化に力を注いだ。これは現在のところ、高温状態の珪酸塩メルト/ガラスの赤外分光をルーチン的に行っている研究機関が国内に無く、実験手法のフィージビリティーを確認する必要があったためである。予備実験の出発物質には、0.12wt%の水を含む流紋岩ガラスを薄片状に整形して用いた。これを加熱セルに封入して赤外ビームを集束透過させ、1気圧/室温〜522℃の圧力/温度条件でその場赤外分光実験を行った。この温度範囲では高温試料からの赤外放射による妨害はみられず、中赤外〜近赤外の全領域で良質の赤外スペクトルを得ることができた。さらに流紋岩ガラスの溶解水による赤外吸収バンドの波数や吸光度の温度変化は実験の再現性に比べて無視できるほど小さいことがわかった。これらの結果から、これまでに研究代表者が開発した室温試料の赤外分光実験手法(例えば山下、1999)を応用すれば、高温状態でも珪酸塩メルト/ガラスと水の相平衡関係を決定できることを確認した。実験装置の最適化では、作動距離が長くビーム集束角の小さなカセグレン光学系を新たに導入して、赤外ビームを加熱セルの試料室へ効率的に集束して良質の赤外スペクトルを得ることを可能にした。11年度は試料に圧力をかけた状態で実験をするにはいたらなかったが、以上に述べたように実験手法のフィージビリティーを確認し、高圧加熱セルを用いて珪酸塩メルト/ガラスの高温高圧その場赤外分光実験を開始する準備を整えることができた。
|