この研究の目標は珪酸塩メルトから水が気相として離溶する反応のエネルギー収支を定量化することにあった。水は高圧下ではマグマ中の珪酸塩メルト相に相当量溶解しているが、マグマの上昇にともない圧力が低下すると溶解度が減少し、過飽和分の水が気相として離溶する(マグマの発泡)。このとき離溶の反応のエネルギー収支(エンタルピー変化と体積変化)に応じて、含水マグマ系全体の温度や体積が大きく変化することが予想される。こうした状態量の変化はエネルギーと質量の保存則にもとづいて数値的に解くことができるが、その種のアプローチにおいて珪酸塩メルトから水が離溶する反応のエネルギー収支が十分に考慮されたことはこれまでになかった。この研究で達成された主要な成果は以下の2つである:(1)含水珪酸塩ガラス(玄武岩組成)中のOH group濃度とH20 molecule濃度を高温「その揚」赤外分光実験により温度の関数として決定し、homogeneous reaction H20 molecule +O=2OHの標準反応エンタルピー(33.8±3.9kJ/mol)、標準反応エントロピー(30.7±5.0J/K per mol)を求めた。これらの値は流紋岩組成メルトについて求められている値と実験誤差の範囲内で区別できず、homogeneous equilibriumへの珪酸塩メルト組成の効果は無視できるほど小さいと考えられる。(2)いろいろな温度条件で水に飽和させた珪酸塩メルト(流紋岩組成)から急冷したガラスの赤外分光分析結果にパラメーター最適化モデリングをほどこして、もともとのメルト中のhomogeneous reaction H20 molecule +O=2OHの標準反応エンタルピー(25.8士11.8kJ/mol)と標準反応エントロピー(6.0±8.7J/K per mol)および気体とメルトの間のheterogeneous reaction H20 vapor =H20 moleculeの標準反応エントロピー(-25.3±4.8kJ/mol)を求めた。これらの値を使って水が気相として離溶するときのエンタルピー変化を、マゲマが発泡しながら上昇するパスに沿って計算したところ、その効果は系の温度を<10K下げるにすぎないことがわかった。
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