研究概要 |
本研究は、未だ分析法が十分確立されていない塩素同位体について、精密分析法の確立と塩素同位体の宇宙・地球化学的動態の解明を目的にするものである。平成11年度は標準海水と標準試薬について0.1‰以上の精度の確立と標準的岩石、隕石からの塩素の抽出・定量法、同位体分析を目標に以下の成果が得られた。 (1)航海KH-98-1で採取された標準海水試料5種、実験室標準試薬(CsCl1種)について、表面電離型質量分析計(MAT262)を用いた塩素同位体分析法の精密化(精度〜0.1‰)を達成した。 (2)無機・有機塩素化合物約10種について、製造企業や製造時期の違いによって最大8‰(標準海水に対しδ^<37>Cl=+3〜-5‰)の変動があることを初めて明らかにした。 (3)標準岩石、アエンデ隕石を用いて、アリカリ溶融法による試料分解、塩化銀沈殿分離・イオン交換カラムによる塩素抽出、イオンクロマトグラフィーの測定などを組合せて塩素の定量法を実現した。しかし回収率は未だ最大50%程度であるため、今後の改良が望まれる。 (4)予備段階ながら,標準岩石(JR-1)と隕石について初めて塩素同位体の精密分析に成功し、標準海水に対し有意の差(アエンデ隕石:δ^<37>Cl=-1.6‰;JR-1:δ^<37>Cl=-2.0‰)があることを明らかにした。 (5)神戸隕石、カルーンダ隕石、地下水、有機塩化物の微生物分解生成物の塩素を定量し、宇宙・地球環境における塩素の挙動の一端を明らかにし、今後の塩素同位体分析の基礎的条件を達成した。 (6)成果の一部を専門雑誌(「研究発表」参照)と学会(第31回月惑星会議、99年度日本地球化学会、質量分析学会99年度同位体比部会、99年度秋期惑星科学会)で報告した。
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