研究概要 |
宇宙地球化学における軽元素同位体の役割は重要であり、従来より惑星物質の研究は盛んである。しかし塩素の精密な同位体分析は難しく、固体惑星物質(特に、隕石)の塩素同位体組成はよく分かっていない。本研究は、表面電離型質量分析計による精密な塩素同位体分析法の確立と宇宙地球物質への応用に関する基礎的検討を目的にした。 初年度は表面型質量分析計による標準試薬(CsCl)の測定法を検討し、精密な塩素同位体比(^<37>Cl/^<35>Cl)の測定法(内部精度:0.1パーミル[‰])を達成した。そして生産工程の違う塩化物試薬について最大8‰の変動があることを見出した。一方イオンクロマトグラフを用いて化学処理過程における塩素の回収率を求めたり、様々な試料中の塩素の精密な定量法を確立した。 2年目は、東大海洋研の白鳳丸(KH-98-1航海)で採取した太平洋の海水試料を系統的に分析し、採取場所や深さの違いによらず塩素同位体比が一定であることを確認し、標準海水の塩素同位体比(Standard Mean Ocean Chloride[SMOC] ;^<37>Cl/^<35>Cl=0.319790±60)を決定した。これを基準(δ^<37>Cl_<SMOC>=0.00‰)に標準試薬(CsCl)の値(δ^<37>Cl_<SMOC>=-2.56‰)を未知試料分析時のモニター値として確立した。さらに、代表的な環境汚染性の有機塩素系溶剤の塩素同位体の分析技術を確立し、脱塩素反応過程での構造サイトの違いによる塩素同位体の選別プロセスを明らかにした。 3年目は、まず岩石から塩素の抽出法(フッ酸リーチング法)を検討し、標準岩石(JR-1)や隕石について高い回収率(85〜90%)が得られる方法を確立した。その結果に基いて塩素同位体分析を進め、標準岩石(JR-1):δ^<37>Cl_<SMOC>=-0.74±0.24(‰),Allende炭素質隕石:δ^<37>Cl_<SMOC>=-2.87±0.32(‰),Allegan普通隕石;δ^<37>Cl_<SMOC>=+0.47±0.52(‰)という結果を得た。これは未だ予備的な結果ながらも、これらの惑星物質の塩素同位体組織に有意の差があることを示しており、今後の宇宙地球質(隕石を含む)研究の展開の可能性を約束する重要な結果と思われる。
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