標的分子の電子衝撃イオン化により生成した非弾性散乱電子と電離電子の運動量を同時計測すれば、物質の性質を支配する波動関数の形そのものを軌道毎に分けて決定できる。この手法は電子運動量分光と呼ばれ、米、加、豪などの数グループにより活発に研究が進められているが、対象分子の空間的ランダム配向により、その測定結果は波動関数の動径部分のみに制限される。本研究は、解離イオンの反跳方向を併せて同時計測することで、波動関数形の3次元測定を試みるものである。 今年度は本研究補助金により、ゲート付遅延発生器、A/Dボード、レベルシフターを購入すると共に、分子科学研究所装置開発室の協力を得て、サブナノ秒の時間分解能を持つ三重同時計測用電子回路の設計・製作を行った。これらを組み合わせ、(電子・電子・イオン)三重同時計測を遂行するためのエレクトロニクス系全体の整備を行った。 予備実験として、光衝突による(電子・解離イオン)同時計測実験を行った。幾つかの二原子分子の価電子を光イオン化し、生成した光電子と解離イオンとの角度相関測定を行った。その結果、価電子イオン化でも親分子イオンの解離速度は回転速度に比べて充分速く、解離イオン計測により対象分子の空間的配向を特定できることがわかった。現在、波動関数の3次元測定に向けて、電子衝撃イオン化による(非弾性散乱電子・解離イオン)の角度相関測定を進めている。
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