1.典型的なヘム蛋白として馬心筋のメトミオグロビンを選び、N-メチルイミダゾール(NMeIm)、OH^-、CN^-がそれぞれ配位した3種類の低スピン錯体について、2次元章動スペクトルの測定を行った。ESE-FT法を用いることにより、共鳴周波数-章動周波数の2次元スペクトルをえた。比較的g因子の異方性の小さなNMeImおよびOH配位ミオグロビンでは、3つのg主値に相当する磁場で無配向章動スペクトルをえた。これらはcw-EPRで求めたg値とよく対応した。CN錯体ではg=3.44、1.86の信号を用いて、磁場掃引法では観測できないg=0.93の信号を得ることができた。 2.g因子が異方的である場合について、マイクロ波磁場とg行列の相対配向を考慮して、章動スペクトルの量子力学的な解析を行った。その結果、章動スペクトルの位相がg因子の異方性によって変化すること、及び、その位相からg主値の相対符号も決定できることを示した。 3.スピンハミルトニアンに基づき、無配向試料から得られる2パルスESEによる章動スペクトルのシミュレーションプログラムを作成した。計算の原理は、無配向EPRスペクトル上のある信号に磁場を固定し、すべての可能なマイクロ波磁場とg行列の相対配向について、章動スペクトルを計算し、積分するものである。 4.CNおよびOH配位ミオグロビンについて測定した2次元章動スペクトルの解析から、g因子の主値の符合が異なる事を示すことができた。また、3でのべたプログラムを用いて章動スペクトルのシミュレーションを行い、実測との良い一致を得ることができた。
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