2次元パルスEPRによる章動スペクトルを用いて、cw法またはパルス法を問わず、通常の磁場掃引EPRでは観測できない高磁場領域の信号の観測、およびg因子の相対符号の決定を可能にする新しい測定法を開発し、低スピンメトミオグロビンに応用した。 1.マイクロ波共振器の試作:章動周波数はマイクロ波磁場の値(1mT程度)での共鳴周波数である。そのスペクトルを観測するには、測定試料の全体に渡るマイクロ波磁場均一度が高い共振器が必要である。Xバンドにおいて、空洞およびLoop Gap共振器を比較した結果、前者は均一度に優れ、後者はマイクロ波磁場の大きさに優れていた。試料の大きさと緩和時間に応じて使い分ける必要がある。今回はLoop Gap共振器を用いてHe温度での測定を試み、振動などを避けるための専用の支持器を試作した。 2.無配向試料EPRの章動スペクトルについて、スペクトルシミュレーション法によって基本的な解析を行った。Gated Integratorによる検出(積分法)と、エコー信号を時間軸に沿って検出しFourier変換する方法(ESE-FT法)との比較を行い、積分法では、EPRスペクトルの非対称性がスペクトルの章動周波数シフトを与えることがわかった。 3.典型的なヘム蛋白として、馬心筋のメトミオグロビン(低スピン)の凍結水溶液について2次元章動スペクトルの測定を行った。ESE-FT法を用いることにより、スペクトルの2次元化を行い、章動スペクトルを得た。実測のスペクトルを理論的な予測と比較し、無配向試料の章動スペクトルの観測磁場依存性を明らかにした。特に大きな異方性を持つCN^-付加体について、磁場掃引法では観測できないg=0.93の信号を観測できることを示した。 4.g因子が異方的である場合について、非配向試料の章動スペクトルの量子力学的な解析を行った。この結果、g因子の異方性のみでなく、その相対符号も決定できることを示した。
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