研究概要 |
代表的なアザスチルベンとして3-スチリルピリジンおよび4,4'-ジピリジルエチレンを研究対象とし,最低励起三重項(T_1)状態における時間分解ESRを酸性剛性溶媒中77Kで測定した。得られたプロトン付加陽イオンのゼロ磁場分裂(ZFS)およびスピン分極の原因でおる最低励起-重項(S_1)→T_1項間交差(ISC)のスピン副準位選択性を中性分子と比較検討し,T_1状態における分子の平面性,スピン分布およびスピンダイナミックスに及ぼすプロトン付加の影響を議論した。 時間分解ESRの実験からISC速度定数に関して得られるのはスピン副準位間の相対値のみであり,速度定数自身の測定は現在の時間分解ESR装置の時間分解能では不可能である。このような時間分解ESR法の欠点を補うために,蛍光性の分子については蛍光寿命および蛍光量子収量を測定し,ISC速度定数の絶対値に及ぼすプロトン付加の影響を考察した。これらの蛍光特性の実験から,イオンになることによりISC速度が遅くなることが分かった。半経験的分子軌道法を用いて励起状態の電子状態を考察した結果,ブロトン付加によりT_1状態の性格は変化しないがS_1状態の性格が変化することが原因であると解釈した。 紫外線吸収剤であるp-メトキシケイ皮酸エステルの蛍光性類似分子であるp-メチルケイ皮酸についてT_1状態における時間分解ESRを種々のpHの剛性溶媒中77Kで測定した。得られたプロトン解離陰イオンのZFSおよびISCのスピン副準位選択性を中性分子と比較検討した。ZFS定数からT_1状態における2個の不対電子は分子全体に非局在化していることが分かった。さらに蛍光寿命を測定し,ISC速度定数の絶対値に及ぼすプロトン解離の影響を考察した。その結果,イオンになることによりスピン副準位へのISCの異方性は変化するが,三つの速度定数の和は変化しないことがわかった。
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